図6を見て下さい。
【図6】生活習慣によって遺伝子のオン、オフが変わる
病気になりやすい遺伝子を持って生まれたり、生まれた後で遺伝子にキズがついて病気になりやすい遺伝子(赤いロボット)ができたりすることがある。
病気になりやすい遺伝子を持っても、生活習慣を通じてスイッチをオフにすれば病気になることはない。
悪い生活習慣によって、健康を作る良い遺伝子のスイッチがオフになることも。しかし、生活習慣を変えてスイッチのオン、オフを元に戻せば、健康を取り戻せる可能性がある。
それぞれのロボットは一つ一つの遺伝子を表しています。生まれつき病気になりやすい遺伝子をもっていたり、生まれたあとの環境要因によってきずがついて病気になりやすい遺伝子になったものがあるとします。それが上の列の赤いロボットです。
ところが、病気になりやすい遺伝子をもっていても、生活習慣を改善するなどして遺伝子の作用が弱まれば、スイッチがOFFになって、病気になることはありません(中央の列の赤いロボット)。
また、逆に、健康に有益な作用をもつ遺伝子(下の緑のロボット)をもっているのに、悪い生活習慣によって、スイッチが切れてしまっていることもあります(左)。そのときは、生活習慣を改めることで再びONにすれば、健康を取り戻せる可能性が出てきます(右)。
スイッチはONにもOFFにも
まとめると―
・親から引き継いだ遺伝子の中には、健康をつくる作用をもつ遺伝子と病気をつくる作用をもつ遺伝子があり、すべての遺伝子には、その作用を発現させるスイッチがついている
・そのスイッチは、もともとONになっていたりOFFになっていたりするが、悪い生活習慣を続けていれば、健康をつくる遺伝子のスイッチがもともとONだったとしてもOFFになることがある。また、病気をつくる遺伝子のスイッチがOFFだったとしてもONになることがある
・その逆に、よい生活習慣に改善すれば、健康をつくる遺伝子のスイッチがもともとOFFだったとしてもONになることがある。また、病気をつくる遺伝子のスイッチがONだったとしてもOFFになることがある
―ということです。
食事と飲酒が大きく影響か
それでは、遺伝子のスイッチを切り替えるのに影響する環境要因とは何でしょうか。
米国ハーバード大学が1996年に行った研究によると、がんによる死亡の原因としてもっとも大きかったのは、成人してからの「食事と肥満」と「喫煙」で、それぞれ30%を占めました。次に「運動不足」が5%、「飲酒」が3%でした。「遺伝的素因」は5%でした。
ただし、これは米国人の場合で、日本人にはそのままあてはめることはできないようです。とくに「喫煙」の害は、米国人は日本人より影響が大きいと考えられています。半面、「飲酒」は、米国人より日本人の方が影響を受けやすいと指摘されています。
奥田氏は、日本人の場合は「食事」がもっとも大きく、それと同じくらいに「飲酒」も重要な環境要因だろうと考えています。
ほか、見逃せないのが「ストレス」です。
例えば、東日本大震災など大災害の発生による避難生活で強いストレスがかかった状態になると、食塩に反応して血圧を上げる遺伝子の作用が高まり、塩気の強い保存食を食べると血圧が上昇する「災害高血圧」と呼ばれる現象が起きることがあります。
「10年後、20年後には差が」
遺伝的素因がすべてを決めるのであればどうしようもできませんが、生まれてのちの暮らし方によって、遺伝子のスイッチをできるだけ好ましい状態にもっていくことができる、と考えれば、大きな希望がもてます。
「がん細胞はとくに、1個の細胞の遺伝子に何段階も変化が起きることで成長していきますので、ドミノ倒しのように進むどこかの段階で、がんの発生を促す遺伝子のスイッチを切ることができれば、それ以上は進みません」と奥田氏。
食生活を改めることの意義については、「すぐによい影響が出るというわけではありませんが、必ずからだはこたえてくれます。エピジェネティクスの変化が現れてくるのが10年後、あるいは20年後になるとして、(食改善を)やった人とやらない人で、やはり差がついてくるだろうと思われます」と話します。
継続は力なり。そして、チリも積もれば山となる―。
ふだんの心がけが体質だけでなく、その後の人生や運命まで左右してしまうということです。
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