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【免疫力UP情報】食行動は変えられるのか②

【免疫力UP情報】
昨今、世間を騒がす新型コロナウイルス。
こちらのコーナーではコロナに負けない身体づくりのための情報を、
過去のむすび誌や正食出版発行書籍から抜粋してご紹介致します。
第7弾は「むすび誌2017年6月号」より「食行動は変えられるか(山中祥子先生のインタビュー)」です(全2回)。
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食器を使い野菜摂取を増やす 研究が進むアメリカの試み

先の「抑制の逆説的効果」からもわかるように、意識的に行動を変えることには限界があります。そこで本人の潜在的態度に訴えていけば、意識することなしに、結果的によりよい選択ができるよう誘導していくことが可能です。
 例えば、食行動学研究が進んでいるアメリカでは、食器を利用して、意識せずに食べる量をコントロールして肥満を解消しようという試みがあります。
 一つの皿を用意します。その皿は、まん中に仕切りがあり、半分に分割されています。さらに片方だけにまた中央に仕切りがあります。つまり、皿は4分の1のスペース2つ、2分の1のスペース1つに区切られています。
 3つに区切られた皿に、「半分のところに野菜を、4分の1のところにそれぞれタンパク質(肉、魚、大豆、卵など)とデンプン類(米、イモ、カボチャなど)を盛るように」と指導します。すると、いちばん大きなスペースに盛られる野菜の量が増えて摂取量も増えるようになる、というわけです。
 これは私たちが、無意識に大きなお皿にはたくさん盛りつけ、小さなお皿には少なく盛りつける、といったように、スペースに応じて盛りつける量を調節するという行動傾向を利用したものです。
 つまり、皿の大きさを変化させることにより、食事の全体の量もある程度コントロールできるということになります。

同じ実験をして効果得られる 「色があったらもっと増えたかも」

 
山中さんも、同じような皿を用意して実験しました。研究室では調理ができないので、調理済みのカット野菜(「レタスミックス」とコールスローの2種類)、空揚げ、ポテトサラダ、ピラフを並べて、最初は自由に盛りつけてもらいました。
 それから一定期間をおき、2回目は「半分のところ(もっとも大きなスペース)には、必ず野菜を盛るように」という条件をつけました。
 実験に協力した人のうち、30代の男性は、1回目では半分のスペースに空揚げとピラフを盛りつけました。2回目は、同じところに野菜と空揚げでした。6個という空揚げの数は変わりませんでしたが、野菜の量が増え、ポテトサラダもいくらか多く盛りつけられていました。
 盛りつけるスペースを大きな方に指定しただけで、全体として野菜の量が多くなったのです。
 実験に参加した人からは、ブロッコリーの緑やプチトマトの赤など「色がほしかった」という声もあり、山中さんは「日本人は色彩を大切にする民族なので、もし、もう少し色とりどりの野菜があったら、トータルの野菜摂取量はもっと増えたかもしれません」と話します。
 野菜を食べることの栄養的な利点を説いてたくさん食べるよう指導したのではなく、単に野菜を広いスペースに盛るように指示しただけで、野菜の摂取量を増やすという目標が達成されたのです。
 このようなことを繰り返すことで、大きなスペースに野菜を盛りつけることを習慣づけることができれば、知らず知らずのうちに野菜をたくさん食べるようにもなると考えられます。
 ただ、和食の場合は、ワンプレートに盛りつけるのには不向きなところがあるので、工夫が必要です。



買い食いをさせないためにコンビニのない帰宅ルートで

 こうした、食器などの食行動をとりまく環境要因をコントロールすることで食行動を改善する他の方法として、山中さんは「買い食いをさせないパターン」の知恵も披露しました。
 ジャンクフードやお菓子などを控えて家でちゃんとした食事をさせたいとして、帰宅途中にコンビニに寄って買い食いをするのをやめさせたいと思えば、まずコンビニの前をとおらないルートに改める。それが無理ならお金を持たせないようにする。買い置きをやめる―など「周りから攻めていく」ことで解決を図ります。
 見逃せない環境要因として、経済事情もあります。
 「去年の国民健康栄養調査で、野菜と肉の摂取量は高所得者に多く、糖質の摂取量は低所得者に多いという結果が出ていました。お金のない人は、安くてお腹がある程度ふくれる菓子パンやカップラーメンといった糖質を多く食べる傾向があります。健康的な食行動に変えるためには、経済格差をなくし、摂取量を増やしたい野菜などの価格を下げることが、本当は一番だと思います」
 英国では、国が食品メーカーを強く指導して減塩運動を展開、塩分摂取量の削減に成功したことがありますが、いまの日本では、即効性のある経済格差の是正や食品業界への圧力といった施策は、現実的ではありません。

環境要因を改善することで食行動を良い方向にみちびく

 
もちろん顕在的態度にアプローチすることも大切ですが、本人が気づいたときはすでに手遅れ、となってしまう心配もあります。
 環境要因をコントロールして潜在的態度にはたらきかけることで、本人が自覚しないうちに行動をいい方向に変化させることができれば、その成果は大きなものがあります。
 「例えば、日本では乳がん検診があまり進んでいません。検診がいいというのはわかっていても、検診にお金がかかるとなると行きにくくなるので、無料にすることはある程度効果があると思います。また羞恥心という点を配慮し、女医さんを増やすというのも、(検診率を上げるためには)ものすごく効果があると思います」
 「周りがどれだけハードルを下げてあげられるか。本人の意識の問題以上のところで変えていかないと」と、環境要因の改善の必要性を力説する山中さんですが、こと食に関しては「あまりヘルシーとか美とか言い出すと、やせすぎるなどそっちの方向へ行ってしまう。そうすると認知がゆがんでしまい、摂食障害など別の問題が生じる可能性があり、食は難しい」とため息をつきます。
 食行動学の研究がもっとも進んでいるといわれるアメリカですが、文化や生活風習の違いもあり、同国での研究の成果がそのまま日本で生かせるわけではありません。
 山中さんは、苦労しながらも実験による試行錯誤を繰り返しては、例えばスマートフォンのゲーム感覚のようなやり方など、潜在的態度にはたらきかけて実際の行動の変化につなげる効果的な方法を探っています。

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山中祥子(やまなか・さちこ)
池坊短期大学准教授。博士(心理学)。神戸松蔭女子学院大学人間科学部と京都橘大学人間発達学部でそれぞれ非常勤講師も務める。1991年、同志社大学文学部心理学専攻卒業。3年間の民間企業勤務のあと半年間、フランスに留学。97年に神戸松蔭女子学院短大入学。出産、休学を経て、2000年に同短大生活科学科食物栄養専攻卒業、栄養士免許取得。2002年に管理栄養士免許取得。05年に神戸松蔭女子学院大学生活学科助手を務めたあと、神戸女学院大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同志社大学大学院文学研究科博士後期課程修了。池坊大学には10年に着任し、製菓衛生師を目指す学生に公衆衛生学、食品衛生学、食品学などを指導している。

  • 2020年08月25日 18時32分更新
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