【免疫力UP情報】
過去のむすび誌や正食出版発行書籍から抜粋してご紹介致します。
第24弾は「むすび誌2015年9月号」よりご紹介します。(全3回)。
-----------------------------------------------------------------------------------
オーガニックとは、ひとつひとつの生き物の生命が、それぞれに生かされていることだと思う。私たち現代人が求めているのは、生命感あふれるオーガニックな風景と気分である」と、進士さんは著書「グリーン・エコライフ? 『農』とつながる緑地生活」で書いています。オーガニックの本質とその意義が端的に表現された文章です。
読者の中には、東京・六本木ヒルズの屋上で子どもたちが田植えを体験した、というニュースを覚えている方がおられるかもしれません。都心の子どもたちに農業体験をと提案したのが、進士さんでした。
「都市、食と農 百姓に学ぶ。環境市民として生きるには」と題した講演で、進士さんはいままさに求められているオーガニックライフの思想と魅力をやさしく語りかけました。
総理大臣表彰の学術賞を受賞 天皇皇后両陛下の祝福受ける
5月4日の「みどりの日」にちなんで創設された内閣総理大臣表彰の「みどりの学術賞」。半世紀にわたり日本庭園を研究してきた進士さんは、都市における「農の復権」を基礎とする「みどりのまちづくり」などへの取り組みが認められて、今年の第九回みどりの学術賞を受賞しました。
表彰式には天皇皇后両陛下が出席され、進士さんら二人の受賞者と親しく言葉を交わされました。
進士さんは、幼少期から小学生時代を過ごし「第二の古里」と呼ぶ福井県の里山里海湖研究所の所長も務めています。福井の豊かな自然環境の保全と再生に取り組む進士さんに対し、全国の里山の荒廃に心を痛めている様子の皇后様は、研究所の活動について質問をされたそうです。
正食協会で行われた講演の中で進士さんは、福井の竹林の現状について、「タケノコをとらなくなってから荒れてきて、薮というより本当にひどい状態です」と訴えました。
その上で、「なぜ里山がだめになったか。それは都会の人間が全然(里山に)行っていないから。人が都会に集まって、田舎は田舎にまかせている。(人口が減少した)田舎は頑張り切れなくなって、シカとイノシシが出て来ている」として、都会の人たちにまず地方や里山に関心をもってもらいたいと説きました。
文明は一律なマネー資本主義 文化は国や民族に固有のもの
里山というと、最近、本のタイトルにもなった「里山資本主義」が話題です。里山の豊かな恵みを活用した日本人の伝統的な暮らし方を参考に、自然と共生するライフスタイルを取り入れていこうというもので、その対極にあるのが、生活に必要なものをすべてお金でまかなう「マネー資本主義」です。
「マネー資本主義は、簡単にいうと文明路線。文明は英語でシビリゼーションで、野蛮から脱出するという意味です。キリスト教の宣教師たちは、そういう考えで世界に出て行き、野蛮な未開人たちをキリスト教徒に変えて、文明の恩恵を与えてやるんだという使命感でやってきました」
「文明とはみんな同じになること。だから世界中がアメリカになった」と進士さん。文明の特徴は、社会がある一つの価値観のもとに一律に構築されることで、戦後でいえばアメリカのような都市が日本を含む世界中で出現してきました。
文明に対し、文化の特徴は「個別性」(進士さん)。「土地や国や民族によって違うもの。それぞれの場所にふさわしい固有のもの」です。
「園芸はフォーティカルチャー、樹芸はアボリカルチャー、農業はアグリカルチャー、水産はアクアカルチャーと、第一次産業はみんなカルチャーがついています。カルチャーは耕すという意味。耕し方が土地によって違う」
近代以前は、日本で諸国の殿様たちがそれぞれ「自分のプライドにかけたいい国づくり」にしのぎを削り、国(地域)ごとに味わいのある風景が生まれました。
しかし、とくに戦後は「農政が農業を産業としてしか見てこなかった」結果、結局はお米がとれすぎて破綻し、農薬や肥料を棚田などに多投して下流域の生態系にも大きな影響を与えてしまいました。
長い文明路線の歴史では、一方で地域や民族に根ざした文化が共存してきました。「ところが現代だけは、文明がほとんど勝って、文化がほとんど見えなくなった」
そこで進士さんが提案しているのが、一律な文明路線に対抗できる、多様性を重視する文化の復権です。
「然び」 は 「エイジングの美」 時を経て無限の生命に近づく
すっかりアメリカナイズされて文明国の仲間入りをした日本ですが、進士さんは専門である日本庭園の研究から、伝統的な日本文化の特色や考え方についてもレクチャーしました。
のちのグリーン・エコライフにも通じる話なので、簡単にまとめます。
日本人の美意識を語るときによく使われる「わび・さび」。進士さんによると、それは「エイジングの美」です。エイジングとは「年を取る(経る)こと」です。
「さび」は、一般には「寂び」と書きますが、「然び」とも表記します。進士さんによると、本来は「然び」=「然るべき」で、「自然に近づく、自然らしくなるということ」です。「しか」という読みが転じて「さ」と読むようになったといいます
「庭に木を植えると、植えたときはいかにも植えたように見えます。それが一〇年、一〇〇年たつと、根が張り、苔むして、本当に自然そっくりになる。それを然びといいます」
「日本の庭園」の著書で進士さんは「有限の生命しか与えられていない人間にとって、確かにこの世に生きていたという証拠を刻むこと、生きていた時間の存在を確認すること、そして無限(永遠)の生命思い出や記憶を持つことは、人生究極の目標とさえ言えるのではないか」と述べています。
時間がたって古くなったものに対して、現代人のように「劣化した」と嘆くのではなく、「時間美」を見出して賛美してきたのは「まさに日本的な発想」と、進士さんは指摘します。
【免疫力UP情報】農とつながる多様な生き方を②へ
-----------------------------------------------------------------------------------
進士五十八(しんじ・いそや)
1944年京都生まれ。東京農大農学部造園学科卒業。農学博士。専門は造園学、環境学、景観政策、環境計画。東京農大元学長、東京農大名誉教授。日本造園学会長、日本都市計画学会長、東南アジア国際農学会長などを歴任。著書は「アメニティ・デザイン」「風景デザイン」「農の時代」(以上、学芸出版社)、「日比谷公園」(鹿島出版会)、「日本の庭園」(中公新書)など多数。2007年紫綬褒章受章。