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【免疫力UP情報】農とつながる多様な生き方を③

【免疫力UP情報】
過去のむすび誌や正食出版発行書籍から抜粋してご紹介致します。
第24弾は「むすび誌2015年9月号」よりご紹介します。(全3回)。
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大根なら亀戸大根や練馬大根 産地で呼び繊細に材料を選ぶ

 そんな百姓に対して、「現代人は実は何姓かでしかない。調理や栄養のプロかもしれないが、せいぜい十姓ぐらい。百姓ではない」と進士さん。
 例えば、同じ花崗岩でも、御影石と呼ばれるのは兵庫県の御影で産出されたものだけを指すように、大根一つを選ぶにしても、東京だけでも亀戸大根や練馬大根などがあります。
 「日本人は、昔から自然のものは全部、産地で呼んだ。それくらい繊細に材料を選んだ。だから一流の料理人が産地まで出かけるのは当然のことです」
 進士さんは「百姓になりませんか」と提案していますが、それは「何も本当に農家になれといっているわけではなくて、自分のもっている能力を一〇〇パーセント発揮するというライフスタイルをもちながら毎日を生きませんか、という話です」と語りかけました。
 「日本を含めた世界中の文明国は、みんなを競争させて、特別じゃないとだめとしているが、特別じゃない方が圧倒的に多い。だからそういう価値観で社会システムをつくってはいけない。人も生きものもモノもすべて平等に見るという仏教的価値観、草木国土悉皆仏性という考え方こそ、まさに東洋人ならではのというか、ヨーロッパ人よりずっとすぐれた価値観だと思います」

安全で美しく生態系にも配慮 そして感動を与えるデザイン

 進士さんの講演の中で、食の安心・安全にも通じる興味深い話として、最後に環境デザインのあり方や環境づくりの妥当性をチェックするために、進士さんが考案したPVESMという見方・切り口について解説したいと思います。
 
 最初のPは、フィジカル性(物理性・機能性)です。安全で便利、機能的かどうか。
 Vはビジュアル性(視覚性・景観性)です。美しいかどうか。
 Eはエコロジカル性(生態循環性・自然性・生物性)。生きものが生きられる環境かどうか。
 Sはソーシャル性(社会性・文化性・地域性)。地域らしさがあるか、その時代の要請にこたえているかどうか。
 Mはメンタル性(精神性・ふるさと性)。感動するか、あるいはスピリチュアル性として、原風景や古里のような精神的な何かを感じるかどうか。

 以上をトータルすれば、すぐれた環境デザインとは「安全で、美しくて、自然がいっぱいあって、その地域らしさがあって、感動的な古里を感じるまち」ということになります。
 東日本大震災で津波の被害を受けた地域では、見上げるほどの高さの堤防が海岸沿いに築かれています。Pの安全性を考えての対応ですが、 「(高さが)一〇何メートルもある堤防で、(住民に)刑務所にいるような毎日を過ごさせるが、それは景観的にいいのか、ましてエコロジカル、自然と共生するようなものなのか」と疑問を投げかけました。

心まで満たすおふくろの味 「おいしい」 は環境のよさから

 食でいえば、国の基準に合致する範囲の防腐剤や酸化防止剤などの添加物を使った食べものは、安全かもしれませんが、メンタルやスピリチュアルなところまで安心できるものでしょうか。
 「安全と安心は、似ているようだけど全然違う。フィジカルだけ(対応して)やっていれば安全だが、スピリチュアルなものまできたときに初めて安心になる」
 スピリチュアルなところまで満足させるトータルな食の代表として進士さんは、「おふくろの味」を挙げました。
 また、学校教育の場で、子どもたちに農業を体験させようというさまざまな取り組みが行われていますが、進士さんは「(子どもたちには)強制ということよりは、楽しいからやるというようにもっていく方がいい」とアドバイスしました。
 同じように、食育についても「教育だからといった押しつけではなくて、(子どもたちが)おいしいし楽しいし面白いから、となるようにしてほしい。『おいしいから』で入って、この食材がおいしいのはなぜだろうと考えたとき、農のあり方にいって、有機物でけっこうつくっているとか、微生物を上手に使ってつくったのがおいしい、安心なんだなとなると、それには環境がよくないとそうならないねということになります」
 「医食も同源だが、食と農も同源、農と環境も同源。そういう大きな流れが市民社会に定着してくれれば、いいなあと。そうなるよう、みなさんもぜひ考えてほしい」と呼びかけ、共感した参加者から盛んな拍手が送られました。

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進士五十八(しんじ・いそや)
1944年京都生まれ。東京農大農学部造園学科卒業。農学博士。専門は造園学、環境学、景観政策、環境計画。東京農大元学長、東京農大名誉教授。日本造園学会長、日本都市計画学会長、東南アジア国際農学会長などを歴任。著書は「アメニティ・デザイン」「風景デザイン」「農の時代」(以上、学芸出版社)、「日比谷公園」(鹿島出版会)、「日本の庭園」(中公新書)など多数。2007年紫綬褒章受章。
  • 2022年03月03日 10時31分更新
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