膵臓に働き糖尿病を改善
―そのほかに判明したγーオリザノールのはたらきにはどんなものがありますか。
膵臓に直接はたらいて、インスリンをつくるβ細胞が自殺するのを防いだり、β細胞の機能を回復させて、インスリンの分泌をよくしてくれるほか、インスリンのはたらきの邪魔をして血糖値を上げてしまうグルカゴンという、膵臓から分泌されるもう一つのホルモンの分泌を抑えたりします。
先ほどの食の好みの調節と膵臓の機能の調節という2つの作用で、糖尿病を改善してくれます。
それから、いまをときめく腸内フローラに対する作用ですね。γーオリザノールを与えたネズミは、またたく間に腸内細菌のバランスが変わっていきます。やせやすい体質と関連する健康的な腸内フローラに変わっていくのです。
脂質異常症に対してコレステロールを下げるはたらきもあります。お通じもとてもよくなっていきますし、肌荒れの改善も期待できます。
腸内細菌も増えて快便に
―玄米食にすると、肉がほしくなくなる、快便になり便の量が増えるというのは、実感としてよくわかります。
私たちも、多くの患者さんで玄米食による一連の効果を目の当たりにしてきたので、γーオリザノールが動物性脂肪の依存を抑えるというのは、メカニズム的にも間違いないという強い実感があります。
また、玄米には善玉腸内細菌のエサになるものがたくさん入っているので、いい腸内細菌が増えます。われわれ人間の便の容積のだいたい7割ぐらいは腸内細菌の死骸ですので、いい菌が増えれば便の量も増えて、便秘症が解消されます。
健康にいいものを食べていない人は、いい菌が育ちませんので、やがて腸内細菌全体の菌の量も減って、便の量も減ってきます。するとだんだん便秘ぎみになります。
われわれの臨床試験でも、8~9割の被験者が、玄米食にしてから便秘がびっくりするぐらい改善しました。
アブシジン酸の被害報告0
―γーオリザノールだけでなく、玄米にはさまざまな微量元素や食物繊維も含まれ、いいことずくめの食品ですが、一方で、玄米に含まれるフィチン酸が微量元素を排出してミネラル不足になるとか、アブシジン酸がミトコンドリアに対して毒性があるなど、玄米食を問題視する声もあります。
フィチン酸は、キレート化合物として微量元素を外に出してしまう効果がありますが、ふつうの量の玄米を食べていて、フィチン酸の作用で異常が出る人というのは、基本的には慢性腎臓病(CKD)のステージがかなり進んだ末期の腎臓病患者さんだけです。
腎機能に大きな問題がなければ、(玄米食を続けることは)メタボの人や糖尿病の人でも問題ありません。
アブシジン酸は、基本的に植物を乾燥から防ぐ物質で、どんな植物にも含まれていますが、アブシジン酸の摂取が健康被害を及ぼすという医学的な報告はありません。
非常に高濃度なアブシジン酸を培養細胞に添加するとミトコンドリアの機能障害が起きたという、イン・ビトロ(試験管内で=人為的にコントロールされた環境下で)の細胞実験の報告はありますが、そのデータが曲解されてきた可能性があると考えています。
そんなに高濃度なものを大量に摂るということは、理論的にはあり得ないですし、オーダー
(桁(けた))がまったく違うので、特段の心配はないのではないかと思います。
玄米は発芽させるとアブシジン酸はぐっと減ります。逆に、γーオリザノールに限って言えば、発芽玄米の方がだいたい2倍弱ぐらいに濃度が上がります。
炊飯する前に、3時間から6時間くらい水に浸けて発芽させた方が、γーオリザノールの効果がより高まる可能性が期待できると思います。
糠漬けでも効果期待できる
―γーオリザノールは実際には人体にどのくらい吸収されるのでしょうか。
γーオリザノールは水に溶けにくく、イメージで言うと、口から摂取したもののうちたかだか5%くらいしか消化管で吸収されません。もちろんそれだけでもいい効果があるのですが、せっかく食べても、かなりの分は吸収されないで便に出ていってしまいます。
そこで、私たちは産学協同研究によって、γーオリザノールだけをナノ粒子のカプセルに入れた機能性食品の開発を進めていて、1年後ぐらいには実用化できるのではと思っています。
ナノカプセルに入れて服用すると、吸収率がすごくアップして、少ない量のγーオリザノールでも、玄米ごはんをたくさん食べたときと同じような効果があります。
玄米を食べた方がいいと思っても、どうしても外食が多いとか、家族の中で自分だけが玄米を食べるということがなかなか難しいといった人には、ナノカプセル入りのγーオリザノールで補う、というのも一つのやり方ではないかと考えています。
―糠漬けを食べても、同じようにγーオリザノールの効果が期待できますか。
糠漬けもいいと思います。
γーオリザノールのすばらしいところは、物質として非常に安定していることです。圧力釜で熱や圧力を加えても分解しません。酸にも強い。
エステル結合を壊すエステラーゼという酵素がありますが、γーオリザノールはエステラーゼが作用しにくい強固なエステル結合を持っており、構造として非常に安定しているのも特長です。