塩の話③
塩選びのキーワードは「原料・濃縮・結晶化」
高純度の食塩に天日塩、海塩、岩塩、湖塩など、食品売り場の棚にはさまざまな塩が並んでいます。食品表示に沿って、塩の原料とつくり方をできるだけわかりやすくまとめました。キーワードは、原料・濃縮・結晶化です。
海水に含まれる塩分は3・5%。うち塩化ナトリウムは2・7%で、残りの0・8%はニガリと呼ばれるそのほかのミネラルです。塩分濃度を10倍の35%まで高くすると、塩化ナトリウムの結晶が析出してきます。
最終的に海水の水分を9割も蒸発させないといけないので、まず濃縮の段階で、塩分濃度を20%に高めた「かん水(鹹水)」をつくります。それからかん水を結晶化させるという二段階の方法が通常とられます。何の原料を使い、どういった方法で塩水を濃縮し、濃縮した塩水から塩を結晶化させているのかが整理できれば、食品表示を見て、どんな塩なのかおよそわかります。
ロングセラーの「食卓塩」のばあい
原材料の「天日塩」は高純度の塩化ナトリウム
まずは、六四年前の昭和27年(1952年)に発売されて以来、ロングセラーともいえる「食卓塩」。現在は公益財団法人塩事業センターが販売しています。
「国内製造」と大きく書かれていますが、原材料を見ると「天日塩(メキシコ)、炭酸マグネシウム」となっています。日本の近海で採取した海水からつくった「国産」ではありません。
製造工程は「溶解、立釜、乾燥、混合」。ほとんどの読者にとっては「よくわからない」というのが正直なところでしょう。
◎原材料
【天日塩】
日本に輸入される塩のほとんどは天日塩です。太陽熱と風力により、塩田で海水を蒸発させてつくられた塩のことです。
というと自然の力でできた良い塩という印象ですが、実際は天日塩はミネラルをほとんど含まない高純度の塩化ナトリウムです。ミネラル(塩類)によって結晶する濃度が異なるため、時間をかけてゆっくりと結晶させると、分離結晶して、純粋な塩化ナトリウムの結晶ができやすいからです。その証拠に、「塩化ナトリウム99%以上」とはっきり表示してあります。
輸入した天日塩は、塩事業センターから「原塩」「粉砕塩」として販売されています。
【炭酸マグネシウム】
塩が固まるのを防ぐために、湿気止めとして加えられ、サラサラした塩になります。ニガリ(塩化マグネシウム)ではありません。
◎工程
簡単にいえば、輸入したメキシコ産の天日塩を水に溶解し、砂などの不純物を取り除いて、きれいな濃い塩水(かん水)にします。それを立釜と呼ばれる蒸発缶で加熱して煮詰め、水分を蒸発させて塩の結晶にします。その結晶を乾燥させ、炭酸マグネシウムを混合
して出来上がりです。
水は、圧力が低いほど低い温度で沸騰します。密閉した立釜は、内部を減圧したり真空にして熱し、水蒸気を盛んに出させます。こうして効率的に塩が生産されます。
塩事業センターの「クッキングソルト」や「精製塩」も、原材料と工程は「食卓塩」と同じですが、塩化ナトリウムの純度は、99%以上の「食卓塩」→「クッキングソルト」→99・5%以上の「精製塩」と高くなります。
国産塩の「食塩」のばあい
イオン交換膜法で濃縮したかん水を立釜で結晶化
「国産塩」とうたっている、同じく塩事業センター販売の「食塩」はどうでしょうか。
原材料は「海水(日本)」です。産地は、瀬戸内4県と長崎県の5か所です。以前は福島県いわき市にも製造所がありましたが、東日本大震災で被災したため、現在は操業を停止しています。
工程は「イオン膜、立釜、乾燥」。「イオン膜」はイオン交換膜を使った濃縮法のことです。
イオン交換膜法は、もともとアメリカで塩水から塩分を取り除いて飲用水をつくる方法として開発されました。その技術を応用し、日本では海水を濃縮する方法として実用化しました。
水の中で塩(塩化ナトリウム)は、プラスのナトリウムイオンとマイナスの塩化物イオンに分かれて溶けています。
そこで、プラスのイオンだけを通す陽イオン膜と、マイナスのイオンだけを通す陰イオン膜を交互に並べて海水を入れ、電気を流すと、プラスのナトリウムイオンは陰イオン膜に引かれ、マイナスの塩化物イオンは陽イオン膜に引かれて集まります。
すると、イオン膜で仕切られた部屋が並ぶ中で、塩分の濃い部屋と薄い部屋が隣り合ってできます。そして海水の6倍ほどの濃度になった濃い塩水だけを取り出してかん水を得るのです。
あとはそのかん水を立釜で煮詰めて結晶化させ、乾燥します。炭酸マグネシウムを混合する工程はありません。
塩化ナトリウムの純度は99%以上です。
伝統海塩の「海の精 あらしお」のばあい
伊豆大島の海水100%で、多彩な味わいと豊富なミネラル
「日本の伝統海塩」をうたう「海の精」。
代表的な商品の一つである「海の精 あらしお」(赤ラベル)は、原材料は「海水(伊豆大島)」、工程は「天日、平釜」となっています。
伊豆諸島の北端にある伊豆大島(東京都大島町)に製塩場があり、近海の海水だけを使って塩をつくっています。
「天日」というと「天日塩」と思われるかもしれませんが、原材料としての「天日塩」とは異なり、工程としての同社の「天日」は、太陽や風によって水分を蒸発させる「天日濃縮」にあたります(ほか、「天日」工程には、濃縮だけでなく結晶化を含む場合もある)。
海の精では、汲み上げた海水を流下盤(防水された緩やかな斜面)に流して水分を蒸発させたあと、約六メートルの高さのやぐらから霧状にしたり、ネットに伝わらせて落下させる作業を繰り返します。ネット架流下式塩田と呼ばれる装置です。
揚浜式や入浜式では、海辺の砂浜の塩田という平面で濃縮作業が行われていましたが、流下式では立体的な構造物により、太陽光だけでなく風も利用して水分を蒸発させられるので、日照時間の短い季節や地域でも使えます。
イオン交換膜式が導入されるまでは、入浜式よりも労力の少ない流下式が製塩法の主流でした。
平釜を使いじっくり煮詰める
太陽光や風によって、塩分が濃縮されたかん水ができると、煮詰めて結晶化させます。そのときに使われるのが平釜です。
立釜と平釜は、漢字が一文字違うだけですが、まったく異なります。
立釜は密閉した釜のことです。製塩工場では、直径五メートル、高さ一五メートルもある巨大な立釜を四本以上並べて、前述した方法で塩を大量生産しています。
これに対し、平釜は密閉していない釜です。かん水を平べったい大きな平釜に入れ、蒸気で一昼夜じっくり煮詰めます。平釜は昔からある伝統製塩法の一つです。
平釜で煮詰めたあとは、未結晶のニガリ液を分離して、塩の成分を調えます。
こうしてできた「あらしお」の主要塩類組成は以下です(100グラム中)。
塩化ナトリウム(塩辛味) 86・43グラム
硫酸マグネシウム(コクのある苦味)1・68グラム
塩化マグネシウム(うまい苦味) 1・41グラム
硫酸カルシウム(ほのかな甘味) 1・36グラム
塩化カリウム(キレのある酸味) 0・46グラム
水分・その他 8・66グラム
海水を丸ごと使い、さまざまな味わいをもつ塩類をバランスよく含んでいるので、塩自体がおいしいだけでなく、料理などに使えば、甘味やうまさを引き立てやすいのが特長です。
また、ナトリウムやマグネシウム、カルシウム、カリウムのほか、ヨウ素や鉄、胴、マンガン、クロム、亜鉛といった、生命の維持や活動に欠かせないミネラル(微量元素)も含まれています。