塩の話④
「野菜中心の食生活ならミネラルバランスのいい塩を」
寺田牧人・海の精株式会社代表取締役の講義
「海の精」といえば、マクロビオティック料理ではおなじみの自然海塩です。
昨年9月に正食協会で行われた正食クッキングスクールの研究会と研修科の合同講義で、「知って納得! 知るほど深い塩の世界 専門家に聞く塩のあれこれ」と題して行われた海の精株式会社代表取締役の寺田牧人さんの講義をダイジェストでお送りします。塩について役立つ知識が盛りだくさんです。
イオン交換膜式への大転換に
食養関係者らがいち早く反応
寺田さんの話は、日本の塩づくりの歴史から始まりました。
揚浜式と入浜式の塩田のほか、海の精で行っている流下式塩田について解説したあと、大きな転換点となった昭和46年(1971年)制定の塩業近代化措置法にふれました。
寺田さんによると、塩の専売制は昔から洋の東西を問わずあったようで、ときの権力者たちは税をかけて塩の販売を独占していましたが、製塩の方法までは規制せず、生産者は
それぞれのやり方で塩づくりを行ってきました。
ところが、塩業近代化措置法では、イオン交換膜式のみが認められ、しかもイオン交換膜式で塩が生産できるのは国内の七社だけに限られたのでした。
それまでの伝統的な製塩法を強制的に廃止し、イオン交換膜式に全面転換させた同法について寺田さんは「これはかなり強烈なことで、そういうことをやったのは日本が世界で
初めてです」と指摘しました。
さらに寺田さんは、「科学的に見れば非常にすぐれたものですが、食養的にはいかがなものかということで、食養の人たちがまず問題にしました」と、一般の国民の間ではほと
んど問題視されなかったイオン交換膜式について、食養関係者がいち早く反応した経緯を説明しました。
自然塩復活運動で生まれた
ミネラルをふくむ再生塩
食養やマクロビオティック関係者らが問題にしたのは、イオン交換膜式でできる塩はミネラルを含まない高純度の塩化ナトリウムであり、ただ塩辛いだけの塩しか流通しなくなってしまうということでした。
そこで、ミネラルの残りやすい昔ながらの製塩法を一部でも認めてほしいと、研究者や料理人、消費者らにも呼びかけて署名運動を展開しましたが、国から拒否されました。
その自然塩復活運動の中で、海外から輸入される高純度の塩に、ニガリの主成分である塩化マグネシウムを加えて溶かし、再び炊き直して、ミネラルを含む塩づくりが開発されました。それが現在の「赤穂の天塩」や「伯方の塩」、「沖縄の塩 シママース」などの再生塩です。
一方、日本近海の海水を原料にして、伝統的な方法で塩をつくろうとする人たちが集まり、海の精の設立母体となった日本食用塩研究会を結成しました。
「試験研究をさせてほしい」という研究会の願いに対し、国は、研究の過程でできた塩は廃棄すること▽研究に値する新しい製塩法を開発することという二つの条件を示して、容認しました。
高純度の海外の天日塩に対し
温室での天日塩づくりを開発
新しい製塩法について研究会は、雨や湿気の多い日本では難しかった天日塩(天日海塩)を誕生させました。
海外で生産される天日塩は、広大な土地に海水を引き入れ、太陽光と風によって水分を蒸発させてつくられます。
そのため、雨や湿気が少なく、高気温で風の強い、地盤のしっかりした平らで広い土地が必要です。加えて、雨期と乾期がはっきりしているという気候条件もあり、メキシコやオーストラリアにあるような大規模な塩田は、日本ではつくれません。
伊豆大島では、ネット架流下式塩田でつくったかん水を、雨や異物混入などの心配がないガラス製の温室内で、チタン製の大きなバットのような皿に入れ、天日で干して、時間をかけて結晶化させます。
これが「海の晶(しょう)ほししお」(青ラベル)です。
塩田に海水を放置して分離結晶をうながし、高純度の塩化ナトリウムを得る海外の天日塩とは違い、「ほししお」は天日干しのときに、必要な成分が分離しないよう人が木ベラで撹拌(かくはん)しながら水分を蒸発させるので、塩化ナトリウム以外のマグネシウムやカルシウム、カリウムなどのミネラルが4%以上も含まれているのです。
「できた塩は廃棄すること」という最初の条件に対しては、試験塩の味をチェックするという趣旨で募った会員に、官能検査の名目で配布することにして、「郵便ポストに捨てました」と寺田さん。
こうして、先人たちによるさまざまな知恵と工夫のおかげで、私たちは今日、高純度の塩化ナトリウムの塩だけではない、ミネラルを多く含む昔ながらの塩を楽しむことができるのです。