塩は工業力のバロメーター
背景に経済成長への国の意向
寺田さんによると、高純度の塩化ナトリウムが求められるようになったのは、工業用の需要が多いせいです。
「工業用に酸とアルカリに分解するには、塩化ナトリウムが必要なので、マグネシウムとかカルシウムとかはゴミなんですよ。夾(きょう)雑物という言い方をされます」
また、伝統的な塩づくりが行われてきた塩田は、沿岸の平らな土地にありましたが、塩業近代化措置法によって全廃させられると、跡地の多くは臨海工業地帯に変貌(ぼう)してきました。
製塩法がイオン交換膜式に全面転換された背景には、高度経済成長を続け、さらに工業化を推進しようという国の強い意向があったようです。
「塩の使用料は、その国の工業力を表すバロメーターだと言われています」と寺田さん。
塩は食用だけでなく、あらゆる工業製品に使われています。寺田さんは「自動車は塩のかたまり」という言葉を紹介しました。
「ゴムを精製するときに塩がいる。ガラスをつくるとき、シートのビニールをつくるとき、塗料をつくるときにも塩がいる。塩を混ぜるのではなくて、塩を分解するんです」
イオン交換膜式については、17ページで説明したとおりですが、寺田さんによると、プラスとマイナスの電極を使って電力をかける際、電気の流れをよくするために、海水中に塩酸を加えます。最終的には、塩酸は強いアルカリ性をもつ苛性ソーダで中和されるそうです。
「酸とアルカリという強烈なもの同士がくっついて、きわめて安全なものになっているのが塩。逆に、塩を分解すると酸とアルカリになります」。酸は塩素として、アルカリは苛性ソーダとして、それぞれ工業用に利用されているのは、15ページで紹介したとおりです。
海水をすべて濃縮した塩は
とても苦くて食べられない
「高純度の塩化ナトリウムではなく、ミネラルの多い塩がいいというなら、海水を全量濃縮して結晶化すれば、それが一番いいのでは」と思われるかもしれません。
しかし、寺田さんは「海水をぜんぶ濃縮した全結晶塩は、ニガリもぜんぶ入りますから、とてもじゃないですが、ものすごく濃くて苦く、食べられません」と話します。
海水中の塩分濃度は3・5%。「海水中には、地球上にあるミネラルがほとんど、何十種類も溶けています。海水を自然蒸発させると、何十種類のミネラルがじわじわっと全体が出てくるかと言うと、そうではありません」
それぞれのミネラルは、濃度がどれくらいになったら結晶化して析出するかが、決まっています。
「4%ぐらいで最初に出てくるのがカルシウム類です。5%ぐらいになったら炭酸カルシウムで、塩化ナトリウムがそのあと出て、カリウムやマグネシウムが出てきます。要するに、順番にかなり規則正しく分離結晶するのです」
自然濃縮させた結晶を上から切って断面を見ると、下からカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩という層になって、「バウムクーヘンみたいにはっきり分かれます」と寺田さん。
岩塩も同じように層ができ、「ポーランドなどでは、塩化ナトリウムの層で何百メールもあり、そこを掘って、中にホテルとか教会とかをつくっているようです」。
最初の炭酸カルシウムは除き
次に塩化ナトリウムが結晶化
海水の分離結晶性を利用して、海外の天日塩は、引き入れた海水からまずカルシウム類を結晶化させます。
寺田さんによると、「いちばん最初に析出したものほど溶けにくくて、いちばん最後に出てきたものほど溶けやすいという傾向がある」そうで、最初に出てくる炭酸カルシウムは、「一回結晶したら、洗っても煮ても溶けません」ということです。
結晶化すると溶けにくい性質を利用して、例えば、巻き貝や一枚貝は粘液を出し、海水中の炭酸カルシウムと反応させて、自分のからだである貝をつくっているのだそうです。
海外の天日塩は、自然蒸発でカルシウム類を析出し切った液を、蒸発池から結晶池に移して、塩化ナトリウムの結晶をどんどん出させますが、カルシウム類を除くのはどの製塩法でも共通しています。
塩化ナトリウムの析出が終わると、ニガリ分が出てきて純度が低くなるので、海外の天日塩はその残りの液を捨てます。
できた結晶は、ブルドーザーでかき集めて塩の山に積み上げ、一~二年ほど外気にさらすと、少し結晶化したマグネシウムなどが空気中の湿気を吸って溶けて出てしまいます。
そうしてさらに純度の高い塩化ナトリウムができ、それが日本など世界中に輸出されるのです。
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